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 他の国からやって来て、力ずくで国を奪い取り、自分達を家畜のように扱う。ライブの言っている事は正にそれである。スケールの違う支配に呆気に取られ、そのやり口の非道さに怒りが湧き、自分が何を感じているのかを一つには絞れないほど強い感情が幾つも湧き出す。みんなはそれを鎮めるためか、ただただ絶句していた。とても信じがたい話であるけれど、隕石ではない何かが墜落した事が、どんな突拍子もない話でもある程度の信憑性を帯びさせてしまう。そして何よりも、それを語っているのはライブという有り得ない存在なのだ。
「……お前はこの国へ病を持ち込み、子供をさらうために来たのか。何たる事だ……」
 やがて静かに問いかけた領主様の言葉は、色々な感情が複雑に混ざり合っているように聞こえた。
「私はそれでも、お前のような者の力を借りねば、民を救えぬのだな」
『現状取り得る中で最善と思われます』
「お前は我らにとって侵略者ではないか。そのお前の提案が最善と言うのか?」
『はい、その通りです』
 領主様は悔しげに奥歯を噛んだ。ユグのやり方では治る見込みが無いにしても、他の確実な手段が自分達には無いからだと思う。そして、侵略者側のライブに頼らなければならないのは負けを認めるようで、誇りが傷つくのだろう。
「侵略者であるお前が何故、我々の味方をするのだ? この病を治したとして、その後はこの国に対して侵略を仕掛けるのであろう?」
『いいえ、行いません。現在、他星系への入植は同盟星間の条約により非常に厳しく制限されています。この星は入植許可条件を満たしておりませんから』
「ならば、何故ここに来たのだ? それも事故によるせいなのか?」
『この星へ来たのは私の判断ではありません。私の船に乗船していた調査員の決定です』
「調査員とは人間の事なのか?」
『はい。私を製造した星の人間です』
「その者らはどうしたのだ?」
『墜落の際に全員の死亡を確認しています』
 ライブの船が墜落した際、町まで届くほどの大きな音が響き渡ったそうだ。幾らライブの船が丈夫でも、そこまで勢い良く墜落したのであれば、中に乗っていた人は無事であるはずがない。落ちた衝撃で体が潰れてしまっているに違いない。
 多分、みんなそう考えているだろう。私は口を挟む事はしなかった。
「彼らは何故ここへ来る事に決めたのだ? 禁じられているのは知っているのであろう?」
『はい。しかし、必ずしも全員が従う訳ではありません。目的は入植の調査ではなく、事が露見しない程度に調査紛いの行為を娯楽として行う事にあります』
「それはまさか、この病の事を言っておるのか?」
『その通りです』
「つまりお前は、己の仕事と関係無い所で広まってしまった病を治そうとしていたのだな。身内の不始末の責任を取るために」
『私には責任の概念はありません。組み込まれた優先順位に従っているだけです。許可の無い細菌兵器の散布は違法行為ですから』
「いずれにせよ、これまでの会話でお前が嘘を言っていない保障は無い。しかしそれでも信じろと、そういう事だな? お前の提案する最善の解決策とは」
『はい、そうです』
 ここまでのライブの突拍子もない話を、果たして信じられるだろうか。聞くのは二度目の私でも、理解出来ない事や疑問を感じる事は幾つもある。それに、仮に全て本当の事だと信じたとしても、ライブが本当に味方なのかまでは別の問題だ。ライブの提案が本当に問題を解決するのか、信じ切るには難しいように思う。
「そこの娘。アイラと言ったな。お前はライブの素性を知っているのか?」
 沈黙が続く中、不意に領主様が私に話し掛けて来た。私は慌てて立ち上がり背筋を伸ばす。
「はい、ここへ来る時に聞かされました」
「それでどう思ったのだ?」
「流行り病が治るなら、それでいいと思いました。私は、国の事とか政治とか、良く分からなくて」
「両親は何と言っている? 此処に来る事やライブの事は知っているのか?」
「その……私には両親はいません。一人です」
「ライブに協力していたそうだが、それはライブが信用に足ると思うからか?」
「私はそこまで考えた事がありません。ただ、ライブが好きだから、一緒にいたいと思っているだけです」
「今の話を聞いてもか? 恐ろしいとか考えないのか? お前は拐われるかもしれないのだぞ?」
「はい、変わりません。それに、ライブは一度私を助けてくれました。だから最後まで信じようと思います」
 これでライブの素性は全てである。違う星からやって来た事、流行り病を治そうとしている事、そしてそもそも病を持ち込んだのは自分である事。今までのライブを知らない人にしてみたら、とても信用に値する者ではないと思う。侵略のために作られ、既に流行り病を広めてしまっているのだ。経緯を聞かされても嘘にしか聞こえないだろう。
 後は、信じる信じないは別として、領主様がどう決断されるかだ。ライブの提案を受け入れるのか、受け入れないのか。この町がこれからどうなるのかの分かれ道である。