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 村人達の案内により、俺達は依頼主の馬車と共に再び村へとやってきた。すると、先程アーリャと二人で来た時とは打って変わって、何処からともなく村人達が続々と姿を現した。やはり、見慣れぬ俺達が敵の一味ではないかと、警戒されていたのだろう。
 村人達はこちらに声を掛ける事もなく、ただただ道の両端に立ち並んで馬車が通るのを見送る。その眼差しはいずれも期待と不安の入り混じった物憂げなもので、この村中を包んでいる重苦しい雰囲気の出所とも言える。一体、何が彼らをそうさせているのか。やはり俺は、仕事は仕事だからとドライに割り切って勤めようという気にはなれなかった。
 馬車は村の中心にある一際大きな屋敷、村長の家へ案内される。その正面玄関では、一人の若い青年と、彼に支えられるように立っている老人が出迎えた。
「御無沙汰をしております」
 依頼主は馬車から降りるなり、その老人の元へ寄って丁寧な挨拶をする。老人もまた、動き難い体なりに恐縮したように何事か挨拶を返す。どうやら二人は面識があるようだった。恐らくあの老人が村長で、青年の方は孫といった所だろう。
「お連れの皆様も、どうぞ中へ。村の中とは言え、連中に見つからないとも限りません」
 青年にそう呼び掛けられ、俺達も長老と連れ立って中へ向かう依頼主の後へ続いた。
 村長の屋敷は、見た目通りの大きさに応じて、中も広くゆったりとした造りになっていた。しかし、非常に年季が入っているのは隠せず、柱の所々に入ったヒビや染みが古臭さを感じさせる。逆に言えば、それだけこの村は古くからこの土地で営みを続けていたという事だ。
 俺達は、一階奥の食堂へ通された。そのダイニングテーブルは、三十四十は楽に同席出来るほどの大きなものだった。それも恐らくは継ぎ接ぎをしていない、一枚板のテーブルである。かなり高価なものなのだろうが、やはりここも建物同様に汚れや欠けの目立つ、年季を感じさせる古臭い様相だった。
 そんなテーブルを挟み、依頼主と村長は早速話を始めた。特に何も言われない以上、それは俺達も聞いて良いという事なのか、そう思っていると、話の内容が突然と核心に迫っていた。
「いよいよ決起されるとお聞きいたしましたが、領主には既に知られる所、まずは本当に御無事で何よりです」
「いえ、まだ決起は始まったばかりです。まずはこの村から始めようと考えておりますが」
「もちろんですとも。既に村の衆には、準備をさせております。皆、領主の仕打ちには耐えかねております故。すぐにでも同行させます」
「その前に、大人数では動き難いですから、檄文を用意しました。それを近隣の村々の代表者へ届けて頂けますか? これを機に、一斉に蜂起しようと考えております」
「分かりました、ただちに届けさせましょう」
 この会話の内容は、もしや。
 二人のやり取りからして、大方の状況は推察できた。けれど、俄には信じ難い内容でもある。依頼主が敵対しているのは、この地方の領主であること。しかも彼女は、村人を扇動して武装蜂起を企んでいる。あまりに不穏だと不安に思う一方で、これはまたいよいよ世間を騒がす一大事に関わる事が出来たと期待する自分もあった。
 どちらに付くのが正解なのか、そんな次の展開を考えていた時だった。
「ちょっと待って! 領主相手に一斉蜂起ってどういうこと? 多少の事は目を瞑るくらいの報酬だけど、幾ら何でもそれは無いわよ。死刑になる以前に、国中で手配されて二度と外を歩けなくなるわ。そこまで関わる義理は無いわよ」
 突如二人に向かってそう叫んだのは、ニーナだった。
「いえ、それは……。騙そうというつもりはありませんでした」
「命の値段の分、払ったつもりでいたの? 報酬次第で危険な事はするけど、人生と引き換えにするつもりなんかないわ。悪いけど、私はここで降りるわ。残りの報酬、今すぐに払って」
「ですが、まだもう少し続けては頂けないかと……」
「無理ね。お金に目が眩んで人生と引き換えにするほど、馬鹿じゃないわよ。レナート、アンタもそうでしょ? ここら辺が潮時、深入り刷る前に帰るわよ」
 何て余計な事をするのだ。ニーナが水を差した事に、俺は苛立ちで舌打ちをしそうになる。俺はこの事態に深入りをするつもりでいるのだ。
「そうですよ、ここからは我々に任せて、ニーナさんと……ええと、お名前は何でしたっけ?」
「え? あ、あの、私はドミニカと申します……」
「ではドミニカさん、女性のお二人は下がって下さい。危険な事は、我々の役目ですから」
 突然と熱弁を振るい出すアーリャに、俺達はしばし呆気に取られた。依頼主が今まで隠していた名前をうっかり口にするばかりか、ニーナまでもがしばし言葉を忘れている。そして村長と孫だけが、この者は何だとばかりにぽかんとした表情で見上げている。
「いや、ちょっと待て。俺達二人でって言うのは」
「私とレナートに決まっているじゃないですか。危険な事を引き受けるのは、男性の役目だと思います。それに、これは義戦なのですよ? 正義のためならば、我々はどんな危険も厭いませんよ」
 だから安心して下さいとばかりに、依頼主ドミニカへ更に熱弁する。困惑するドミニカだったが、それ以上に困惑するのは俺の方だった。これでは俺の立場が既に依頼主側と決められたかのようである。しかも、引き受けなければアーリャがごね出しそうな雰囲気だ。
 正義がどうとかの感情論になる前に、俺はドミニカへ事の次第を訊ねる。
「受けるかどうかはさておき……我々は状況を全く知りません。それを教えて戴かなくては、本当に義戦なのかどうかも分からないのです」
 すると、
「待った! アンタもしかして、義戦なら受けるとか言うつもりなの?」
「そうなるだろうな」
「……アンタ、本当にどうしちゃったの? らしくないわよ」
 らしくない?
 口を挟んで来たニーナの言葉に、俺は首を傾げる。青臭い事を言うな、といった類なら分かるが、らしくないとはどういう事だろうか。自分で言うのも何だが、俺は元からそういう考え方の人間だったはずだ。
「では、ドミニカさん。お話を聞かせて下さい。我々が挑む義戦の内容について」
「はい、分かりました……」
 そして勝手に話を進めるアーリャ。そんな俺達の様子を、村長と孫は酷く不安げに見守っている。