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「まず最初は、自分の派閥を議会に作ったんだ。一定数の議員を送り込む事が出来れば、与野党が無視出来ない勢力になるからね」
「そんな勢力、それこそ簡単に作れるものじゃないだろう」
「それがね、たった一回の選挙で出来たんだよ。シンプルな選挙戦略を使ってね」
「一回で? なんでそうもあっさり」
「富国政策を訴えただけさ。当時の与野党は、アプローチこそ違えど政策は共通して反サンクトゥスだったからね。国民はそれこそ長い戦争にうんざりしていたのさ。敗戦の面子の回復より、今日明日の生活が大事。なのに政府は、もう一度開戦しかけない勢いだ。そこへ、反戦富国政策を訴える第三勢力現れた訳さ」
「厭戦ムードの国民にしてみれば、渡りに船って所か」
「そういうこと。おかげで全議席の四分の一を掌握、そこから時勢を読んだ与野党派閥の人間が寝返ったりする訳だ。気がつけば第一与党になってしまった訳さ」
 サンクトゥス国への恨み辛みは、コウがまだベネディクトゥス国へ居た頃に話としては知っていた。ただその事についてあまり実感が無かったのは、周囲が戦争の勝ち負けよりも生活への不安を漏らす事がほとんどだったからだろう。サンクトゥス国を恨んでいるのは、ごく一部の支配層だけ。そう言われてみると納得する部分が多々ある。それにしても、元与党の彼らはそこまで国民の厭戦ムードが高まっているのを、どうして少しも読み取る事が出来なかったのだろうか。
「第一与党を後ろ盾に出来たけれど、それだけじゃまだまだ力は及ばない。財界を初めとする古い繋がりはあちこちにあるからね。今度はそこへ切り込んでいって、自分の影響力を強める必要があるんだ」
「政治的に圧力をかけるのか?」
「それもあるけど、それだけじゃない。せっかく強固な仕組みがあるんだから、わざわざ解体する必要はないよ。むしろ、乗っ取って自分の物にした方が都合が良い」
「それこそ出来るのか?」
「やり方はあるよ。今度はね、財界の要人や著名人の後継者や成り代われそうな人間を狙ったんだ」
「何のために?」
「古い業界だとね、次代の人間ってのは苦労するんだよ。先代が良かったと比較されたりね。それで、自分色を強引にでも出そうとして失敗したりするんだ。ここが付け入る事が出来るポイントだね。そんな鬱屈とした二代目を、焚き付けたり、軽く協力したりするんだ」
「それで代替わりがうまく行けば、そのまま自分の派閥へ取り込む事が出来る訳か」
「もう一つ、これの良い所は、代替わりしたがっている彼らは大抵が若いという事だね。若いという事は、使える時間が多いということ。それだけ長く派閥へ居てくれる訳だね。もっとも、下手を打たなきゃの話だけどさ」
 次代の鬱屈とした心理を突く作成、それはなかなかに見事だとは思う。しかし、それだけで財界を切り崩せるかどうかは甚だ疑問だ。むしろそれをきっかけに、もっと露骨で分かりやすい旨味を提示して取り込んだと見る方が現実的である。その旨味とはなんなのか、仮にロプトがそれを知っていたとしても、それはまさに話せない内容になるのだろうが。
「まあ他にも色々あるけれど、細かいのは省くよ。なかなかセコい手もあって格好悪いからね。それでセタに対する扱いなんだけれど、カラティン王の目的は彼を自分の派閥へ入れる事なんだよ」
「え? 自分の派閥へ?」
「そう。王はセタの境遇について概ね知っておられるんだ。そこで、少しでも自分が力になれたらとすら考えている」
「馬鹿な。仮にも一国の王が、たかが敵国の騎士にそんな事を? 有り得ない。発想がじゃない。何のメリットがあるんだという意味でだ」
「キミもセタの生い立ちは知ってるだろ? これは僕の憶測だけど、王も庶子とは言っても継承権を持っていたせいで、周囲から疎まれて育った訳だから、何か境遇にシンパシーでも感じたんじゃないかな」
「自分と同じ境遇だから同情したと? それこそ王のする事じゃない」
「王でも人間、人の子だよ。僕はむしろ納得したし、だからこの仕事に志願したんだ。何でもかんでも王道で合理的じゃ、あまりに冷たいじゃない。少しくらい人間味があった方が、僕は仕える価値があると思うね。それでセタの待遇としては、王はセタを自分の護衛の責任者にするつもりらしいよ。前の護衛隊は全て上王について行ってしまって、今は再編成中だからね」
 カラティン王は、セタを自国へ引き入れるばかりか護衛を任せるつもりだとは。それが確かなら、今のセタの境遇に比べ夢のような厚遇ぶりである。それだけに、あまりに現実味が無く疑わしく思う。つい最近まで敵国の英雄だった男に、一国の王がどうして簡単に命を預けるのか。それに王位を得てから未だに護衛を再編成中となっているのは、実のところカラティン王の周囲はあまり芳しくないのではないのかと邪推してしまう。
 けれど、これら全て差し引いても、セタはこのままサンクトゥス国に留まるべきと断言するのは難しい。今のセタの扱われ方はそれほどのものだ。
 本当にロプトの言っている事は正しいのか。そもそもカラティン王という人物の人となりを直に知っている訳ではないため、全てそのままに信じる訳にはいかない。
 だがーーー。
 人は窮すると信じたいと事だけ信じる、そんな言葉を思い出す。そして自分が、本来の目的を忘れ完全にセタへ肩入れしかけているから窮するのだと、今はっきり自覚する。
 初心に帰るべきだ。そして、本来の目的、セタの暗殺を果たそう。
 そう自分に言い聞かせるが、ロプトの言っている事がどうしても魅力的に聞こえてならなかった。