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 クロヴィスの自宅は、ごく平凡な通り沿いに建つ一軒家だった。二階建てに広い庭のついた、見方によっては豪勢な家である。地価の低い田舎だからこそ出来るのだろう。
 庭石の上を歩きながら、庭の様子を窺う。芝生は綺麗に刈られ、膝ほどの高さの柵の傍には花が植えられている。こちらもよく手入れがされているらしく、どれも美しく咲いているように素人目にも分かった。
「こんにちは、聖都から来た役所の者ですが」
 呼び鈴を鳴らし、ドアに向かってそう声をかけてみる。すると、少し待った後に中からドアが開けられ一人の女性が現れた。
「どちら様でしょうか?」
「本庁の児童福祉課から参りました、エリックと申します。こちらはマリオン。息子さんの事でお話を伺えればと思いまして」
「クロヴィスでしたら、今は学校に行っております」
「いえ、まずはお母様のお話からお願いしたいのですが」
「私ですか? はあ、構いませんが……とりあえず中へどうぞ」
 あまり警戒されていないのだろうか、あっさりとクロヴィスの母はエリック達を家の中へ招き入れてくれた。
 家の中は、内装こそやや古びてはいるものの綺麗に片付けがされすっきりした印象だった。彼女が綺麗好きなのだろうが、その一方で子供がする落書きなどの痕跡がまるで見当たらないのも不自然に思える。彼女が一人だけで住んでいるのかと思いそうになる。
 リビングに通されたエリックとマリオンは、椅子に促され着席する。クロヴィスの母親はそれからお茶の準備を始めた。不意の来客をもてなすその様子には、今の所不自然な部分は無い。
「さあ、どうぞ。村で採れるお茶です」
「ありがとうございます。それで、肝心の本題についてなのですが」
「あの子の事というのは、つまり……そういう事ですよね?」
「お察しいただき恐縮です。まず、一体何が起こっているのかを解明したいので、どうか御協力をお願いします」
「分かりました……ただ、私にも分からない事ばかりで、期待に添えられるかどうか……」
 そしてクロヴィスの母親は遠慮がちに話し始めた。
「昔からクロヴィスは、口数の少ない子でした。友達もいません。学校から帰って来て宿題が終わると、大抵は一人で読書をします。ここから少し歩いた所に図書館があるんですが、週に一度、クロヴィスはそこへ行って本を借りてきます。それがあの子の生活の大半です」
「最初の事件は、こちらに引っ越して一週間ほどで起こったそうですが」
「ええ。まだ村の地理に不慣れだった頃です。あの子は近所を出歩いていたんですが……そう、確か帰って来た時は服が泥水で汚れていました。それに被っていた帽子も無くなっていて。もしかするとそういう事があったのかも」
「その、亡くなった子供との間に? いわゆるガキ大将タイプだったそうですが」
「おそらく、としか。あの子はいくら問いただしてもそういった事は話してくれませんので、はっきりとは。私もしつこく問いただすのはかえって酷だと思いましたので、あまり触れないようにしました」
 仮にクロヴィスが、そのガキ大将に何らかの虐めを受けたとして、それが殺害の動機になったのだろうか。けれど、彼女の言葉を信じるのなら、彼女はガキ大将について何も知らないことになる。
「次は行商人だそうですね」
「あの子にも一応歳相応なだけお小遣いをあげています。それで買った物も報告させていました。行商人の事も噂では聞いていました。子供を騙してお金を巻き上げるような人もいるとかで。だから私は気をつけるようには言っておりました」
「けれど、クロヴィスは行商人の所へ行き、そしてお金を騙し取られた?」
「そうだと思います。買った物を教えてくれなかった時があって、何度も問い質したのですがやはり話してくれませんでした。行商人が急死したのも同じ頃です」
 クロヴィスは行商人にお金を騙し取られた事を恨みに思っていた。そういうことなのだろうか。けれど、これもまた彼女はどの行商人か知らない事になる。
「失礼ですが、これまでクロヴィスの近辺で亡くなった人達は、もしかしてクロヴィスに何かしらの危害を加えているのではありませんか?」
「断言は出来ませんが、そうかも知れません。そもそもあの子はあまり喋らない大人しい性格ですから、虐めの対象になっていてもおかしくありませんし。ただ担任の先生のお話では、学校でも気味悪がられて近付く生徒はいないそうです。同じクラスで立て続けに何人も生徒が亡くなったのですが、もしかするとその子達と以前に何かあったのかも知れません」
「クロヴィスは虐めに遭い、それを理由に恨んでいたから生徒が亡くなったと?」
「恨んでいたかどうかは、それこそ、親には話してくれない事ですから何とも……本当にすみません、自分の息子のことなのに知らない事ばかりで。あの子にとって私はあまり良い母親ではないようです」
 クロヴィスは母親にあまり心中を語らないらしい。けれど、被害者の共通点を探る手掛かりも得た。もし、クロヴィスに対して危害を加えた者が不審死を遂げるのだとしたら。動機は復讐という事になる。そして肝心なのは、誰がどのように行ったか、だ。やはり実行犯を疑うべきはクロヴィスの両親となってしまうのだが。