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 キャンプ場の調査はウォレンとルーシーに任せ、エリックはマリオンを連れて台帳にあった住所へ急行する事にした。
 四人の被害者と同日時にキャンプ場を利用していた男。彼の名前はケネスといい、次の標的である確率が高いのと同時に、被害者が銃撃された理由について何らかの事情を知っている可能性がある。それを聞き出す前に撃たれる訳にはいかないのだ。
 ケネスの住まいは、東区にある住宅街の集合住宅の一室だった。早速訪ねてみたエリックだったが、やはり平日の昼間という事もあってか部屋は留守だった。そこでエリックは管理人を
尋ねケネスの職場について聞き出すと、すぐさまそこへと向かった。
「重工業の営業職ですか。もしかすると、外回りで不在なんてなってないでしょうか」
「重工業なら新規飛び込みなんて無いし、ルート営業だと思うよ。だから行き先は会社も知ってるはず。最悪そこを回るしかないだろうね」
「それにしても、今回の被害者ですけど。何となくなんですが職業が似てません? 製鉄とか製造とか工業関係ばかり」
「何らかの共通点があるとしたら、その辺りが関わってきそうだね。工業関係の何かが」
 四人の被害者は、いずれも広い意味での工業関係の会社へ勤めている。仕事柄の事で接点を持ったのであれば、殺された理由も仕事柄の事なのだろうか。ならば黒幕には各会社がいるのか、それとも別の組織なのか。何にせよ、彼らの職業が事件と無関係とはまだ断言出来ないだろう。
 ケネスの職場を訪問すると営業部の方へ通される。そこに現れたのは営業部の部長だった。
「申し訳ありません。ケネスですが、実は先週から無断欠勤をしておりまして……」
「無断欠勤ですか? どなたか連絡などは」
「自宅の方も実家も確認はしましたが、全く帰って来ていないようで。一応、御家族が警察へ捜索願を出してはいるのですが、ほらここの所あんな事件が起こっているでしょう? それであまり人員を割けられないのだろうと勝手に想像しておりまして。警察の方が直接いらっしゃったということは、何か事件に巻き込まれているのでしょうか?」
「詳しくは話せませんが……とにかく、もしもケネス氏の居場所が分かりましたら御連絡下さい。それと、本人には絶対に外出しないよう伝えて下さい」
「承知いたしました」
 ケネスは無断欠勤をしている。本人でいない以上、もはや話すことは何もない。エリックは丁寧に礼を述べて会社を後にした。
 せっかくの有力な手がかりと思われたが、空振りに終わってしまった。事態は思ったよりも深刻で、しかも進行が早いのかも知れない。ここは一同捜査の方針から建て直す相談をしないといけないだろう。
「残念でしたね、エリック先輩。でもケネスは大丈夫でしょうか? 捜索願が受理されたという事は、失踪ではなく行方不明扱いという事ですよね。既に殺されているとかないでしょうか」
「今までの事件からすると、こっそり殺害して遺棄する理由は無さそうだし、多分大丈夫だとは思うけれど。ともかく、無断欠勤し続けているのは気になる所だね……」
 行方不明となれば、まず最初に想像するのが既に殺されているという説である。これまでの事件の特徴から推測すると、密かに殺され遺棄される理由はない。けれど、ケネスが実は最初の被害者であり、一連の連続殺人の練習台にされたのならば話は違ってくる。
 何にせよ、こちらの手がかりは完全に途切れてしまった。後はウォレン達の成果に期待するしかない。
 二人が特務監査室の執務室へ戻って程なく、ウォレンとルーシーもキャンプ場から戻ってきた。その表情は深刻で、証拠が見つからなかったというよりも一層意味不明なものが見つかったようだった。
「キャンプ場の奥の方でな、変なもん見つけて来たぞ。とりあえず実物見てくれ」
 するとウォレンは、やたら大きなリュックサックから何かを引きずり出して見せた。それは樹木の中頃を切り取ったらしき丸太だった。
「え……何を持ってきてるんですか」
「ノコギリでぶった切って来たんだよ。そんなことはどうでもいい。まずこれを見ろ」
 そう言ってウォレンは、丸太の表面の一部を指し示した。そこには幾つかの小さな穴が空いている。木のうろにしてはあまりに小さく不自然なものだ。
「これは銃創だ。弾も中に残ってる。普通はキャンプ場にこんなものはねえよな」
「それってつまり、あの四人が撃ったと言ってますか?」
「憶測だがな。案外こいつら、銃を密造でもしてたんじゃねえか? 職業も初めは接点が無いと思ってたが、会社の資材やら身に付けた技術やらあれば出来なくはないと思うぜ。銃の構造と火薬の調合さえ独学でも何とかなりゃいけんだろ」
「そしてキャンプ場には、試し撃ちのために来ていたという事ですか……」
 まだ何の裏付けもない憶測である。銃は世界でも最新の技術であり、一般人に独学で密造など出来るかは怪しい所である。しかし、一応の辻褄は合う。彼らがいつどこでどうやって知り合ったかは知らないが、密造銃の試射とすれば幾つかの疑問は解決出来てしまう。
 そうなるとやはりケネスは既に殺されている可能性が高くなる。彼も何らかの形で密造と試射に関わっていたのだから、犯人の標的にされてもおかしくはない。だがその一方で、犯人の目的がますます分からなくなる。犯人はどうやって密造を知り、何のために彼らを殺したのだろうか。少なくとも彼らの密造した銃を奪うのが目的の一つには違いないのだが。
 ここは一旦警察とも連携し、ケネスの足取りを本格的に追わなければならないだろう。そんな事を話し合っていた時だった。突然執務室にスーツ姿の男が勢い良く飛び込んできた。よほど慌てていたらしく、酷く息を切らしている。
「し、失礼……。国家安全委員会の者です。早急にお知らせしたい事がありまして」
「何でしょうか? 室長は不在ですが」
「そのラヴィニア室長の事です! 先ほど銃撃事件がありました。被害者はラヴィニア室長です。現在病院へ搬送されています!」