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 その日、ドロラータは朝から外出をしていた。以前なら昼を過ぎない限りベッドからも出て来ない生活をしていたが、エクス達との旅ですっかり朝型の生活に慣れていたためさほど苦でもなかった。
 ドロラータが来たのは王都サンプソムの東地区。そこをしばらくふらふらと歩き回っていると、やがて目に留まったある教会の中へと入った。朝の教会は人の姿もなく閑散としていた。祈りを捧げるよりもまずは仕事を。人々の考え方がそういった傾向にあるからだろう。近年の聖霊正教会は、自由な教義の解釈のある新教へ改宗する信者が後を絶たず、影響力や存在感の低下が懸念されている。シェリッサがエクスの元へ送り込まれたのには、そういった背景があったことをふと思い出した。
 静まり返った教会の片隅に佇む一人の女性の姿を見つける。ドロラータはすかさず近づいて話しかけた。
「シェリッサ、ここの教会だったんだね」
「えっ!? ドロラータさん!? どうしてここが?」
「東サンプソム第二教区司祭、前に自分でそう言ってたじゃない。だからこの辺りの教会を探しただけ」
「そういう事でしたか……」
 互いに並んで椅子に座る。あれ以来互いに連絡を取ることはなく近況も知らなかったが、この佇んだ雰囲気からどういった状況になったかは暗黙の内に察する事が出来た。エクスとの関わりの一切を絶つこと。そしてそれがどれほどの重みを持つのかも、何も言わずとも共有出来る感覚だ。
「司祭って色々忙しいと思ってたけど、案外そうでもなさそうだね」
「いえ、今はお勤めを免除されて休暇中ですから」
「なのに教会にいるの?」
「ここが一番落ち着けますから」
「そんな風には見えないけど。ま、いいや。ちょっとお茶しに行こ。ここじゃ話しにくい事もあるから」
 そう言ってドロラータは強引にシェリッサを連れ出した。東地区に詳しくないドロラータは、教会を出てすぐ近くにあったカフェへと入った。そして店の一番端の目立たない席へ座る。注文を終えた後、ドロラータは早速本題を切り出し始めた。
「当然だけど、エクスの事は知ってるよね」
「はい……ニュースにもなっておりますから」
「『勇者エクス、アリスタン王朝に対する反逆の罪で投獄』、まあ全部デタラメとは言い切れないところだけど、流石にクラレッドの居場所を言わないだけで反逆罪はやり過ぎというか強引だよね」
「ええ、私もこのやり方には賛同出来ませんし、異議申し立てをしたいところなのですが」
「ま、悪目立ちするだけで良いやり方でもないかな。それに、うちだけじゃなく聖霊正教会もギルド連合も、完全に王室の肩を持つみたいだし。上司にこの件に首突っ込まないで大人しくしてろって言われたでしょ」
「遠回しには。それに、この件では関係者なので記者などに取材を申し込まれるかと覚悟をしていたのですが、そういった気配も一切ありませんでしたね。これはギルド連合の方の動きでしょうか」
「そうだろうね。何としても余計なことを広めさせないつもりなんでしょ。あたしらの口を塞いで起きたいの。今はまだ、穏便にね」
「ならば、尚更私達が声を上げるべきではないのでしょうか。このまま従っていては、無法を見過ごす事になります! 世の中に正しい事実を訴えましょう!」
「いや、無理でしょ。そもそも媒体はギルド連合が押さえてるんだし。それに、下手に目立つことをしたらそれこそ拘束されちゃうかもね。既に先走ったアホの子が軟禁されちゃったし」
「もしかして……レスティンさんが?」
「そういうこと。郊外の別荘に閉じこめられてるらしいよ。金持ちは牢屋も豪華ねー」
 魔導連盟、ギルド連合、聖霊正教会は、それとなく連携してこの件から三人を無理矢理にでも遠ざけようとしている。事実関係を世の中に広めさせたくないのだろうが、それはエクスをこのまま反逆者に仕立て上げようとしている王室に協力しているからだ。何故アリスタン王朝がエクスを反逆者にしようとしているのかは分からないが、ここまでの動きには明確な強い意思が感じられる。
「それで今日来た理由なんだけど。状況は整理出来たと思うんだけど、シェリッサはそれでもまだエクスの事は諦めていない?」
「当然です。私は、その、星読みの預言などはもう関係ないと思っています。自分のためにエクス様と添い遂げるつもりですから! ただ、私には何をどうすれば良いのかさっぱり分からなくて……」
「その気持ちさえ分かれば十分。こっちもシェリッサを巻き込んで良いかどうか確かめたかったからね」
「巻き込む? と仰いますと」
「んーと、取りあえず。今夜、レスティンの捕まってるとこに忍び込んで直接話し合おうと思ってさ。今後のことに。シェリッサにも来てもらって、三人で考えるの。エクスをどうやって救出するのかをね。もちろんだけど、本当に本気でまともなやり方じゃないから。それでもいい?」
「分かりました。必ず同行させて頂きます。元は目的が競合している仲でしたが、今は三人で力を合わせないといけないという事ですね。必ず同行させてエクス様をお助けいたしましょう!」
 そう言ってシェリッサは真剣な眼差しでドロラータの両手を取り、固く握り締めた。これまでシェリッサは、物事に波風を立てず事なかれ主義で、不本意でも周囲に流されやすい性格だとドロラータは思っていた。だがはっきりとした目的があると途端に火がつくのかも知れない。そもそもそれぐらいの意思がなければ、史上最年少での司祭にはなれなかっただろう。
「ところで、話し合うにしても何か当てのようなものはあるのでしょうか?」
「うーん、まあ朧気にかなあ。取りあえず三人の時に話すよ。しかし、シェリッサって意外と握力あるね。そろそろ痛くなって来たんだけど」