標的を人間と思ってはいけない。
そこにあるのは血の通った人間ではなく、ただの的だ。
それが殺し屋として、最低限の心構えだった。
どんなに技術に優れていようとも、いざという瞬間に躊躇いが生じてしまっては、仕事をやりとげる事は出来ない。
これまで俺は、それを忠実に守って仕事をこなしてきた。
浴びるほど血を流し、自らの糧として生活してきた。
それは、暗い夜道を手探りもせず駆け抜ける様にも似て。
いつしか俺は、人を人とも思えなくなりかけていた。
街を歩いても、すれ違う人間は、標的か否かでしか見る事が出来ない自分。
黒く濁りきったこの情緒を、唯一人間側に引き止めていたのが”彼女”の存在だった。
この、潰えた楽園の最下層から飛び出した、希望の花。
人々は彼女の笑顔に勇気を見出し、その歌声に生きる活力を与えられていた。
あまりに辛過ぎて、思わず目を背けたくなるような日常。
覚める事の許されない悪夢が繰り返されても、人はやはり生きるしかない。
その無間地獄に渦巻く人々に温かな手を差し伸べたのが、年端もいかない彼女だった。
そんな、この潰えた楽園に舞い降りた希望の天使が。
今、俺のスコープの先で、一時の暇を縫って羽を休めている―――。
Oh! What a Crazy!