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「いずれにしても、その機械とやらを使えば病を収める事が出来るのは分かった。お前の船への攻撃も止めさせよう。ユグも良いな? あの鉄の塊こそが病魔の根源と言っていたが、どうやら違うようだぞ」
「私は……いささか賛同しかねますな。理屈だけを申すのであれば、あれが落ちて来て以来、病が広まり出したのも事実です。ライブ殿は、自分と流行り病は関係しているとおっしゃっていましたな? ならば、ライブ殿の船が落ちて流行り病が広まったのではないのですか? あれを病魔の根源ではないとするなら、先ずは先にそれを証明して頂きたいものですな」
 ユグの表情も、これまでとは違った訝しみを帯びている。ボドワンと同じく、今の言葉に引っ掛かったのだろう。
「む……しかしだな、ライブは病を治す機械があると言っておるのだぞ」
「嘘かも知れませんぞ。我々の手を借りて、更に病を広める策とも考えられます。船とやらの中には、本当は武器やら何やら忌まわしいものが詰まっているのではないですかな」
 あくまでライブを信用しないユグの姿勢。言い掛かりに近い言い草だけれど、ユグの言っている事は半分は外れだが半分は当たっている。どうしてこういう所は勘が鋭いのか。
「ライブよ、ユグはああ申しておる。確かに、奇しくもあれが墜落したのと流行り病が広まり始めたのは同じ頃合いだ。ライブはこの病についてどう関わっているのだ? その船が関係しているというのは事実なのか?」
『はい、事実です』
 あっさり、そして淡々と答えるライブ。むしろ、答えを聞かされた側の方が動揺している。
『この病はある目的のため人工的に開発されたものです。私の国では細菌兵器と呼ばれ、カテゴライズされています。そしてそれが私の船に搭載されていた事に間違いはありません』
「何だと? 待て待て。それでは、お前がこの病をこの国へ持ち込んだと言う事になるが?」
『その通りです』
 当然否定されるものと思っていた領主様は驚きで言葉を失い、言い逃れようとすると思っていたユグとボドワンは呆気に取られた顔で、それぞれライブの方を見やる。自らの悪事を自らひけらかすとは思いも寄らなかった、というのが三人共が持った事だと思う。ライブを良い物とも悪い物とも決め付けても、どちらも同じように驚いてしまう発言だ。
「なんと、やはりあれが病魔の根源だったか! 領主様、これ以上は無益ですぞ。早く追い返しなさいませ。もはや是も非もありませぬ」
 金切り声でわめき立てるユグ。ボドワンも、苦り走った表情だったものの、今度はユグを止めなかった。ユグの言っている事が正しいと傾きかけているからだろう。
「……良い、捨て置け。まだ話は終わっておらん」
「しかし!」
「こやつを処分するのはいつでも出来る。そうだな? ボドワン」
 領主様の言葉に、ボドワンは苦い表情のままこくりと無言で頷き、左手を腰の厚く大きな剣にかけた。あんな大きな剣で斬りつけられたら、幾らライブでもきっと無事では済まないはず。けれど私には、ボドワンの右手が剣の柄に伸びぬよう、ただ祈るしか出来ない。
「ライブ、お前は何のために病を持ち込んだのだ? そして、何故、その解決策を私に提案している? お前のそもそもの目的を聞かせて貰いたい」
 震える声で何とか振り絞るように訊ねる領主様。本当は話も出来ないほど動揺しているのだと思う。それでもここで止めないのは、きっと領主としての責任感だ。
『私の星では経済活動の一つとして、他の星系への入植を行っています』
「入植?」
『移住、と表現すれば良いでしょうか。様々な目的に応じ、移住してきた人々が生活出来るように環境の整備を行ないます。リゾート地、軍事演習、大規模興行、資源の採掘等、用途は非常に多岐に渡ります』
「要は、土地の開墾だな」
『大まかには。そして開発を行う際には下調べの一つとして調査隊が派遣されます。調査に用いられる船は用途別に二十三種類あり、各々の調査内容や活動目的は異なります。私、アクイラシリーズの場合は、原住民の生態調査とサンプルの採取になります』
「サンプル?」
『遺伝子構造や保有菌などを調べるために持ち帰る事です。つまりは、拉致です』
「拉致!?」
『そうです。そして私、開発コードLiveは、主に未成年の拉致と調査に特化して設計されています』
「何故わざわざ子供と限って調べる必要があるのだ?」
『未成熟故に、これから思想教育が可能かどうかの実験をするためです』
「思想教育とは何だ?」
『要は労働力の確保のためです。奴隷、と表現すれば分かりやすいでしょうか。心身ともに成熟した大人よりも、子供の内に管理しやすい思考に育成した方が労働力としては重宝するのです。我々支配階級に奉仕する事が最上の生き甲斐と擦り込めば、管理者は最小限のコストで労働力を運用する事が出来ます』
「ならば、既に居る大人はどうするのだ?」
『そのための細菌兵器です。体力の無い者を淘汰する事で、同時に人口削減も行えますから。労働者用の管理区域はあまり大規模に建設する事は出来ません。万が一、集団で決起した場合、鎮圧のためには相当数を処分しなければなくなります。労働力の不足は入植地の運営にとって致命的な問題です』