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 ディオネーが魔王の信者である。それはオルランドにとって、想像より遥かに複雑な感情を抱かせた。魔王を人から見聞きしたまま悪し様に語る事を不快に思う一方、魔王を肯定する人にも不快感を抱くこと。その感情は、友人と支持する政党や主義主張が対立関係にあった時よりも衝撃的で複雑である。オルランドはどう言葉にして良いものか、しばし考え込んでしまった。
「随分驚かれているようですけれど……そんなに珍しいのですか?」
「魔王の信者である事を、少なくとも他人に打ち明けるような人は初めてですから。実際はもっと居るかも知れませんが、口にしないのはそれが悪い意味で異端である事を自覚しているからでしょうし。ですので、とても失礼ではありますが、あなたが臆面も無くそれを口にしたのはどこかファッション感覚で捉えているからではと邪推せずにはいられません」
「フフッ、なかなか辛辣なお言葉ですね」
 そう笑うディオネー。オルランドの言う通りであると開き直っているのか、それとも別な観点があるのか。どこか余裕のある話し方は、霊能者という肩書きもあってか、神秘性のようなものを感じさせる。
「こんなエピソードがあります。これは、ペルケシス国のとある山間の寒村だった場所のお話です。貧しく小さな村だったそこには、時折街からの行商が訪れていました。しかしある日のこと、いつものように村へ向かっていた彼の荷馬車の前に、突然魔王が現れたのです。彼は、その外見やただならぬ雰囲気から、これが今世界を騒がせている魔王であると直感しました。荷物を渡して命乞いをし見逃してもらえないだろうか、そんな事を思いながら恐怖で固まっていたところ、魔王は彼にこんな事を言ったのです」
「どんな内容なんです?」
「死にたくないのであれば、今日はこのままここで野宿をしなさい、村には明日行きなさい、と。彼はとにかくそれで命が助かるならと承諾し、その日はそこで夜を明かしました。そして翌日、村へたどり着いた彼はその様子に腰を抜かしたのです」
「何があったのですか?」
「村が、跡形もなく焼き払われていたのです。当然、村人も残らず全て。これはきっとあの魔王の仕業だろう、再び恐れおののいた彼は急いで町に戻っていき、この事を皆に伝えました」
 魔王が村一つを消してしまう、そんな虐殺を行った。そういった話は少なからず聞いた事がある。何より自分も家業の施設を焼き払われ親族を殺されている。こういった魔王の残虐性についてなど、今更特に驚くような話ではない。
「魔王は何故村を焼き払ったのですか? そこは何か重要な軍制品を作っていたとか?」
「いいえ。おそらくですけど、理由は村の習慣にあったのだと思われます」
「習慣?」
「その村は、近くを流れる川を鎮めるための儀式をたびたび行っていたのですが。この御時世において未だに、その儀式に生け贄を捧げていたのです。自治体が進めようとした治水事業に強硬に反対しておきながら、ね」
「生け贄ってつまり……人を一人殺すって事ですよね」
「ええ、その通りです。非科学的ですよね」
「その情報の出所は、やっぱりあなたの力によるものですか?」
「正確に言えば、生け贄にされた被害者です。何れも酷く強い恨みを持っていましたから、こんな事に意味が無いことくらい分かっているのでしょうね」
 古い因習として、生け贄による雨乞いや治水は何処にでもある昔話である。しかしそれがこの現代において未だ続けている地域があったとは。外界との交流が無いために、科学よりも神秘主義に取り付かれたままなのだろう。人間の心の薄暗い部分を聞かされるのは、やはりあまり気分の良いものではない。
「魔王は、そんな因習を続けていた事を理由に村を滅ぼした、という事なのでしょうか?」
「少なくとも私はそう考えています」
 ふとオルランドはカバンから自分の手記を取り出して、これまでの記録を見直した。魔王が軍属でもない一般人を殺めたケースは意外と少なくない。普通に考えればそれが魔王の残虐性、悪名を高めた要因の一つである。しかし、それらを実際によくよく取材してみれば、被害者側には何かしら恨みを買うような理由があった。法的に問題が無いケースでも、魔王が手を下した事もある。それらの大半が軍事的な施設や関連企業であり、これまでは単に魔王が人類側の戦力を削る目的で行っていたと考えていたのだが。
「魔王は、自分の価値観を基準に、悪を裁いていた?」
「はい。だから私は、崇拝とまではいきませんが、魔王の所業について肯定的に捉えているのです。もちろん、こんな事は誰にでも話す訳じゃありませんけどね」
 法的に裁かれ難い社会悪、そういったものを裁き滅ぼす事が魔王の行動理由だったのだろうか。何事も手続き主義の現代の法体系において、それは決して許されない蛮行である。けれど、それを持ち前の力によって強行した。だから彼は魔王と呼ばれたのだろう。そして人類と対立し、最後は滅ぼされた。まるで溜まりすぎた膿を取り除くために生み出された存在のようである。では、長い目で見れば魔王のしてきた事は人類にとって良いことだったのだろうか。けれどそれはあまりに傲慢な言い方である。まるで人類の支配者、もしくは神のようだ。そうオルランドは思った。