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「あなたがドロラータさんですか! 若手のエースだそうですね!」
 ドロラータが勇者エクスと初めて顔を合わせたのは、式典の翌日の魔導連盟本部でのことだった。エクスのパーティー再編について真っ先に動きを見せたのが魔導連盟であったため、エクスとの面談も魔導連盟が最初となったのだ。
「いえ、あたしはまだまだ未熟な魔導師です。見た目通りの若輩者で、とてもエースなどと呼べるようなものでは」
「はっはっは、御謙遜を」
 勇者エクスの第一印象は、とにかく朗らかで明るく太陽のような人だった。滑舌も良く無駄に声が大きく、堂々として自信に満ち溢れている。おそらく人柄も誠実で嘘もつけないだろう。魔王討伐にも志願して加わったのだから、正義感の強さも並ではない。何から何まで自分とは正反対の人間。そのためドロラータは、きっと自分は彼とうまくはやっていけないだろうと思った。エクスのようなタイプの人間は人の感情の機微を察する事が出来ない。悪い言い方をすれば無神経になりがちだ。それによるストレスや不満が日々蓄積されていき、いつか我慢の限界が訪れ爆発する。要件はそうなる前に片付けなければいけない。
 この顔合わせは、ドロラータが同行する仲間に相応しいかを決める面談である。けれど、自分の能力をアピールしたり謙遜する事に意味は無い。魔導連盟が紹介したのはドロラータだけであり、パーティーとして魔導師が必要である以上既に内定していると言っても良いからだ。
「俺は魔法なんて我流であまり上手くは使えません。あなたのようなスペシャリストが加わってくれるのは本当に心強い。一緒に困っている人々を助けましょう!」
「は、はい。よろしくお願いします」
 正式にパーティーへ加わる事が決まるのは想定通りだったが、まるで強引に押し切られたように頷いてしまった。エクスには人に有無を言わせぬ迫力があった。いや、迫力という脅迫的なものよりもつい同意してしまう魅力のようなものかも知れない。これが勇者という肩書きによるものなのか、ドロラータには判別がしかねた。物心つく前から魔導連盟に入り人生の大半が魔導だった彼女は、人間と接する経験に乏しかった。そのためエクスという存在感の強すぎる人間には強く戸惑ってしまう。
「ところで勇者様」
「ああ、俺の事はエクスと呼び捨てて頂いて結構です。正直、勇者と呼ばれる事には慣れていないので面映ゆくて。それにあなたの方が年長ですからね、気楽な話し方で構いませんよ」
「……それでは、エクス。今後の活動についてですが、どういったものを計画していますか?」
「まだ具体的には決めていません。ただ、魔王は去りましたがまだ世界中には活動を続けている幹部や末端の兵などが居ます。そういった者に苦しめられている人々を助けて回りたい、そう考えています。きっと行き当たりばったりで無計画な行脚、旅となると思いますが、どうかそれは理解して戴きたい」
「それは構いませんよ。勇者エクスのサポートがあたしの役目ですから。思うがままにされるのが、きっと世の中のためにもなると思います」
「良かった、そう言って戴けると助かります。何せ前任の魔導師には、行動が行き当たりばったり過ぎるといつも注意されていて。魔導師は無計画な行動を嫌うものなのかと思っていました」
 前任の魔導師の話はドロラータもある程度知っている。やはり魔導連盟に属する魔導師であり、勇者エクスのパーティーで唯一の生還者である。討伐の過程で様々な呪いや病魔に犯され、現在は然るべき場所に隔離され療養中との事だ。それがエクスに振り回された者の末路だと言うのであれば、自分もいずれは同じようになるかも知れない。それを想像し、ドロラータは背筋が冷たくなる思いに震える。
「では、目的地などはあたしが計画して決めましょう。魔族の支配が強い地域や小競り合いの続くような場所、そういった情報は魔導連盟で集める事が出来ます。何せ支部は世界中にありますし、魔法文の伝達が最も速いですから」
「おお、それはありがたい! 是非、頼らせて貰いますよ。どうにも俺はすぐ目先の事にとらわれてしまって、計画的な行動というのが苦手なんです」
 勇者エクスをサポートする。これについて嘘は無い。だが、目的地はこちらで決めて内容はコントロールさせて貰う。そうドロラータは企む。自分の身に危険の及ぶような事を進んでしようとは絶対に思わない。そのために危険な地域からエクスを遠ざけるのが一番効果的である。それは彼の信念を騙すような行為でいささか罪悪感もあったが、自分の身をわざわざ危険に晒す理由がドロラータには無い。これは仕方のない事だと割り切らねばならないのだ。
 そしてもう一つ、安全な地域を回らせねばならない事情もある。そもそもの目的であるエクスの懐柔のためだ。魔族との抗争が激しく片時も落ち着けないような状況では、エクスに魔導連盟へ加わって貰うよう説得する暇も作れないだろう。